用間論(4)


「…というわけで、ドクタケは水底雷を使って兵庫水軍を壊滅させる計画だ。いまごろ、ドクタケでは水底雷の量産体制に入っていることだろう」
「とすると、兵庫水軍に、警告しておく必要があるな」
 数日ぶりに学園に戻ってきた伊作は、自室で留三郎と向かい合っていた。
「そうだね」
 頷く伊作の表情には、疲労が深く刻まれている。敵地でほとんど昼夜ぶっ通しで治療に当たっていた上に、水底雷の作戦を探っていた疲れが一気に出ていた。ぐらりとその上体が揺れる。
「おい、大丈夫か…」
 自分に向かい合って座ったまま眠り込んでしまいそうな伊作の肩に手を伸ばしながら、留三郎は声を上げる。
「お前ら、そんなにわかりやすく聞いてるくらいなら、入って来いよ」
「なんだ、気付いてたのか」
「当たりまえだ」
 天井板の一枚が外れて、小平太と長次の顔が覗く。襖が開いて、仙蔵と文次郎も入ってくる。
「相変わらずきたねえ部屋だな」
「おまけに臭いし」
 一気に4人が入ってくる気配に、伊作も眼を覚ます。
「え…君たち、いったいどうして」
「ドクタケの新式武器を探りに行ってたそうだな」
 文次郎がむすっと言う。
「そういう面白い話を私たちに黙ってやるとはけしからんな」
「それとも、私たちに気付かれずにやるつもりだったのか?」
 仙蔵と小平太もにやにやしている。
「どういうこと? 留三郎」
 伊作には、まだ事態が把握できていないようである。
「決まってんだろ…俺たちの話を聞いていたってことだよ」
 苦虫を噛み潰したような表情で、留三郎が答える。
「でも…どうして?」
「こんな面白い話を、私たちが聞き逃すとでも思っているのか?」
 仙蔵が揶揄するように言う。
「そういうことだ。だからこの話、俺たちも一枚かませてもらうからな」
 文次郎が腕組みをして続ける。
「そうと決まれば、さっそく作戦会議だ! 伊作、さっきの水底雷の話、もっと詳しく聞かせろよな」
 小平太が興奮を隠し切れずに身を乗り出す。

 


「…ごめん。水底雷の詳しい構造については、私もつかめなかったんだ…天井から話を聞く程度しかできなかったから。ただ、どこに仕掛けるつもりかは分かる」
「それだけ分かれば十分だ」
 仙蔵が、伊作の肩に手を置く。
「水底雷の構造については、以前、図書室で調べたことがある。ドクタケがあまり独自性のあることをやるとは思えんから、明の軍事書を見れば、大体のことは分かる」
「で、水底雷って、どんな武器なんだ?」
 小平太が訊く。
「簡単に言えば、水中型の地雷だ。爆雷を仕掛けた箱を水中に置く。起爆装置につながる縄を地上まで引いておく。目標とする船が破壊範囲に入ったところで縄を引けば、その船は木っ端微塵、という寸法だ」
(つまり、水底雷の最大の弱点は、縄にある)
 長次が続ける。
「兵庫水軍には、水練のものが多いと聞く。彼らに水底雷の場所さえ事前に通報できれば、水底雷の無力化など簡単ということだな」
 留三郎が確認する。
「まあ、そういうことだ…それで伊作」
 仙蔵が、伊作に向き直る。
「ドクタケは、いつ兵庫水軍と戦うつもりなんだ?」
「まだはっきりしたことは決めていないようだ。兵庫水軍を挑発して、水底雷を仕掛けた場所まで誘導するには、それなりに工作も必要だから、という判断のようだ」
「というと、伊作には引き続きドクタケの作戦を探ってもらうとして…俺たちはどうするかだ」
 黙って腕を組んでいた文次郎が、口を開く。
「方法は二つ。兵庫水軍に、ドクタケの挑発に乗るなと警告しておくか、挑発に乗った振りをして作戦水域に行ってもらい、逆にドクタケに一泡吹かせてやるか、だ」
「どっちにするか決めてるくせに、いちいちもったいぶった言い方するな」
 いたずらっぽい笑みを浮かべる仙蔵に、ぶすっとした文次郎が突っ込む。
「何を言う。作戦というものは、いくつもの選択肢から決めていくものだ」
 こたえた様子もなく、仙蔵は軽やかに受け流す。
「では伊作。引き続き、ドクタケの作戦を探ってもらうが、大丈夫か? 俺も援護するか?」
 気がかりそうに伊作の顔を覗き込む留三郎に、伊作はよわく笑いかける。
「大丈夫さ。ドクタケ城の構造は、前回潜ったときにだいたい把握したし、達魔鬼には、また治療に来て欲しいと言わ…」
 ふいに、伊作の上体が、ぐらりと揺れた。
「おい、どうした」
 両側にいた文次郎と留三郎が、慌てて伊作の身体を支える。
「…」
 がくりと頭を垂れたまま、伊作は意識を失ったように眠り込んでいた。

 


「その後、経過はどうですか」
「はい。ずいぶん楽になりました」
 数日後、ドクタケの医務室に、伊作の姿があった。新たな膏薬を携えて患者の様子を見に来たのだ。医務室まで伊作を導いた達魔鬼は、竹高に呼ばれて城主の間に行っていた。
「この膏薬を使えば、あと2,3日で傷は完全に治ります。あと、この散薬は身体の免疫機能を高めるための薬なので、毎朝必ず飲んでください」
「ありがとうございます」
「お大事に」
 医務室に残っていた患者の診察を終えると、伊作は薬房に入る。水が悪いせいか、ドクタケには腹下しの患者が多い。煎じ薬を作っておく必要があった。
 煎じ器に火を入れると、伊作はそっと周囲の気配を探った。
 -今日こそ、ドクタケが兵庫水軍に宣戦する日を探らなければ。
 あるいは、少し焦っていたのかも知れない。周囲の気配を充分に探る前に、伊作は立ち上がって、医務室と反対側の襖を開ける。
「おや、どちらへ」
 部屋の外には、八方斎が立っていた。
 -しまった!
 思ったときにはもう遅い。八方斎の背後から何人ものドクタケ忍者が現れて、伊作はたちまち囲まれてしまった。
「い、いやぁ、厠に行こうと思いまして」
 頭を掻きながら伊作は言いつくろうが、それで済ませるような八方斎ではない。にやりとして言う。
「そうか、厠はこちらだ。雨鬼、案内してやれ」
「は」 

 


「で、何の目的でドクタケ城に潜り込んだのだ」
 地下牢で床几に掛けた八方斎の前に、伊作は引き据えられた。
「私は、達魔鬼さんに頼まれて往診に来ただけだ。達魔鬼さんを呼んで欲しい」
 後ろ手に縛り上げられながらも、伊作は落ち着いた口調で言う。
「ほう、ところでお前は医者ということだが、どこの町の医者なのだ」
 伊作の言葉に取り合う気配を見せずに、八方斎は身を乗り出す。
「そんなことも達魔鬼さんからは聞いていないとは、なかなか風通しの悪い組織

と見える」
 -八方斎は、私が忍術学園の人間であることを知っててとぼけているのか、それとも、本当に知らないのか…?
 八方斎がどこまで自分の属性を知っているのか計り知れない伊作は、とりあえず相手を挑発してみることにする。
「なんだと」
 八方斎の眼に険がはしる。
「もう一度…」
 言いかけたところに、控えていた雨鬼が耳元で何かささやいた。
「雨鬼、こいつを見張っておくのだ」
 言い捨てると、八方斎は足早に牢を後にした。

 


「八方斎さま、困ります。あの者を即刻釈放していただかないと」
 口角泡を飛ばしているのは、達魔鬼である。
「あの者は何者なのだ達魔鬼! わしの許しも得ずに勝手によそ者を城内に入れるとはなにごとだぁっ!」
 八方斎の鬱憤が爆発する。
「殿のご命令で、忍術学園に内通者を作るために呼び寄せたのです。せっかく工作がうまくいきかけていたのに…」
「では、あの者は忍術学園の者だというのか…わしは聞いておらんぞ」
 額の青筋がいくつも増殖する。
「そうです。それに、多くの怪我人の治療にも当たってもらえました」
「なにを得意そうに言っておる…」
 握った拳に力が入る。
「お言葉ですが、八方斎さま」
 達魔鬼が長身をかがめて睨み下ろす。
「なんじゃ」
「けが人の多くは、水底雷の開発実験で生じたようですが、私は、そのような話は聞いておりません。水底雷を使うとなれば、水軍創設準備室長の私にまず話があってしかるべきと思いますが」
「お前一人しかおらん水軍準備創設室に、何の話を通す義理がある!」
「準備創設室ではありません、創設準備室です!」
「んなことはどうでもいい!」
「…ぜんぶ、聞こえちゃってるな」
 雨鬼がぼやく。八方斎と達魔鬼の口論は、地下牢の通路で勃発してしまったため、地下牢全体に響き渡っていた。
「こういうことは、どこか聞こえない場所でやってほしいもんだな」
 風鬼が肩をすくめる。
 -やはり、達魔鬼は、私を内間に仕立てるつもりだったんだ…。
 当然ながら、伊作の耳にも、口論の内容は届いていた。
 -そして、私が学園の人間であることを、八方斎は知らなかった…つまり、ドクタケの作戦はあまり全体の調整を経ていないということだな。
 伊作は考える。
 -ということは、少なくとも水底雷を使う作戦は、達魔鬼は関与していない。八方斎が中心になってすすめているということだ…。
 その八方斎から、作戦の実行期日をどうやって引き出すか。
 -八方斎が、あの作戦を一人で立案しているとは考えにくい。誰か、実行部隊がいるはずだ。それを探らないと…。
「しょうがない。今日のところは、俺たちも引き上げよう」
「そうだな。あの分では、取調べは明日になるだろう」
 雨鬼たちが、八方斎の床几を片付けて牢を出る。
「あ、あの…」
 牢に入れるなら、せめて縄は解いてもらわないと…といいかけたところで、2人は牢に鍵を掛けて出て行ってしまった。
 -あーあ、まったく…。
 伊作は、ため息をつく。
 -脚袢に小しころを隠しといたのは正解だけど、だからといって今、縄を切ってしまうわけにも行かないし…。
 せめて、少しでも縄を緩めようと悪戦苦闘しているところに、天井からの声が小さく響いた。
「ったく、見てられねぇな。イモムシの脱皮みたいだぜ」
「誰だ!」
「俺だ」
 声の主は、天井からひらりと舞い降りた。
「文次郎…留三郎は?」
「なんだ。助けるのが俺では不満か?」
「そうじゃないけど」
「留三郎は、仙蔵たちと兵庫水軍に向かっている。情報を入れるためにな」
 苦無を取り出しながら、文次郎は答える。
「あ、待って」
「どうした」
「縄は、切らないで」
「なぜだ」
 文次郎が、眉を寄せる。
「きっと、達魔鬼が私を逃がしに来る。それまでは、捕まっていないとまずいんだ」
「どういうことだ」
「達魔鬼は、私を内間に仕立てるために、ドクタケ側に取り込もうとしている。それが城主の命令である以上、私をこのままにはしておけないはずだ。それに…」
「それに?」
「ドクタケの作戦の実行日をまだ探っていない。それを探るのは、私の役目だろう?」
「大丈夫なのか」
「ああ…それより、誰か来る」
「そうだな。じゃ、気をつけろよ」
 文次郎が牢の格子を伝って天井に姿を消すと同時に、達魔鬼が現れた。
「善法寺君、君にはたいへん申し訳ないことをした」
 達魔鬼は、隠し持っていた鍵で牢の扉を開けると、中に入ってきて伊作の縄を切った。
「来てくれると思っていました」
「八方斎さまには、あとで事情は説明する。とにかく、今日のところは、帰ったほうがいい」
「わかりました」
 周囲の気配に気を配りながら歩く達魔鬼に、伊作は声を掛ける。
「達魔鬼さん」
「なにかな」
「ドクタケ水軍創設準備室は、達魔鬼さんお一人なんですか?」
 -聞いてしまったか。
 耳をふさぎでもしない限り、聞こえない方がおかしい状態でやりあったのだから、仕方ない。
「その通りだ」
「ということは、私は、水軍の顧問医というより、ドクタケの顧問医ということになるのでしょうか」
「…まあ、そのように考えてもらってもいい。そのことについては、おいおい八方斎さまとも話し合って決める」
「そうですか」
 考え深そうに、伊作はあごに手を当てる。
「それが、どうかしたかね」
「ああ、いえ。どこに所属するかによって、必要な薬も変わってきますので」
 適当に言い繕いながら、水底雷の作戦期日をどう聞きだすか考える。
「というと?」
「水軍であれば、砲弾戦が主力になりますから、火器の扱いに伴う火傷などが多くなるし、船酔いや栄養の偏りによる脚気などへの対処が必要です。一般の戦であれば、金創(刀傷)がどうしても多くなります。その違いです」
「ふむ、なるほどね」
 感心したように、達魔鬼もあごに手をやる。
「それにしても、火傷の人が多すぎますね。もっと膏薬を用意しないと…」
「それは大丈夫だ」
「どうしてですか」
「危険な開発段階はすでに終わっている。これ以上、火傷の患者が大勢出ることはないだろう」
「ならいいのですが」
 -開発がもうすぐ終わるとは聞いていたが…あとは、いつそれを使うかなんだ。
「達魔鬼さん、そういえば、私は薬房で薬を煎じている最中でした。それを完成させてしまいたいのですが」
「ふむ…まあ、薬房なら人目にもつきにくいし…」
「では」

 


 薬房の煎じ器は、まだ炭の火力が残っていて、程よく抽出がすすんでいた。
 -なんとか、この間に考えないと。
 しかし、うっかり外に出れば、また八方斎たちにつかまって牢に逆戻りだろうし、天井や床下に潜り込むなど論外であろう。城内を探ろうとしていることがあまりに明らかだから。
 -仕方ない。ここはいったん片付けて城を出よう。折を見て潜入しなおすしかない。
 そう思ったとき、隣の医務室から声が聞こえた。
「それにしても急な話だよな。こんどの大潮の日までに現地に運んでおけとは」
「だってあれ、まだ動作確認がとれてないんだろう?」
 ごそごそと話しているのは、火傷の膏薬が足りずに医務室で休んでいるよう伊作が指示したドクタケ忍者たちだった。
 -水底雷の話か?
 煎じ器に、団扇で風を送りながら、伊作は耳を澄ませた。
「だが、殿まで作戦を観戦にお出ましになるので、日を動かせないらしいんだ」
「まあ、数は作ってあるから、不発がいくつかあったところで何とかなるのかも知れんがな」
 -動作確認をしてないのに、数を作ってあるとはどういうことだ?
 それがドクタケならではのアンバランスなのだと分かっていても、伊作には理解を超えた行動である。
「で、誰が設置するんだ? ドクタケにはそんな水練の者なんていないだろう」
 別の声が、会話に加わる。
「だから、大潮の日なんだろう」
「へ?」
「大潮は、潮の引きも大きい。いちばん引いたときに浅瀬に仕掛けておけば、満潮のときには、かなりの深さのところに仕掛けたことになる」
「へえ、そんなものか」
「…」
 伊作は押し黙って団扇を動かす。 
 -これは、私に聞かせるための芝居か? それとも、私が聞いていないと油断しての会話か?
 ドクタケゆえに、どちらもありそうで、伊作は悩む。
 -まあいい。
 煎じ器の蓋を開けて、抽出の度合いを確認する。
 -水底雷の敷設予定地は分かっている。ドクタケが、小型の軍船で兵庫水軍を挑発して、水底雷の爆破水域へ誘導することは確かだろうから、大潮の日とドクタケの船の動きを見張っておけば、作戦の日は限られるだろう。

 


「…ということで、確証はないが、大潮の日に作戦を決行する可能性はきわめて高いと、私は思っている。皆、どう思う?」
 学園に戻った伊作は、仲間たちにドクタケ城で耳にした情報を語った。それがどこまで説得力のある情報か、自分でも今ひとつ自信がなかったが。
「俺は、伊作の情報は、ほぼ確定的だと思う」
 自分の話を力強く肯定する声に、伊作は思わず声の主にまじまじと視線を向ける。それが、ほかならぬ文次郎だったから。
「というと?」
 胡坐をかいた片膝に頬杖をつきながら、仙蔵が訊く。
「伊作と別れたあと、俺はドクタケの武器庫を探った。そこで水底雷らしい箱を荷車に積んでいるところを見た。残りの箱の数からみて、2,3日のうちに水底雷を作戦地域に運び終わるだろう。次の大潮は4日後だから、計算が合う」
「なるほど」
「だが、ひとつ、分からないことがある」
「ほう?」
 腕を組んで眉を寄せた文次郎に、仙蔵が首を傾げる。
「俺は、ドクタケの軍船も探ってみた…だが、そこにあったのは、どう見ても恐竜さんボートだった…」
「「恐竜さんボート?」」
 仙蔵たちが、思わず声を上げる。
「そうだ…」
 苦虫を噛み潰したような顔で、文次郎が続ける。
「…俺は、連中が軍船と呼ぶものがほかに隠してあるのではないかと思って探し回った。だが、どうしても見つからなかった…というか、どう考えても連中が軍船と呼んでいるのは、あの恐竜さんボート以外にありえないのだ…」
「しかし、そんなふざけたボートで、兵庫水軍を挑発できるとは考えにくいが…」
 留三郎が、当惑声を上げる。
「いや、ありうると思う」
「どういうことだ?」
 伊作の声に、全員の目が集まる。
「私はドクタケの中に潜り込んでみたが、ドクタケを一言で言えば、アンバランスだ」
 あの薬房の立派な薬戸棚と、その中身のお粗末な実態を思い出して、伊作は唇をゆがめた。
「ドクタケには、薬種問屋と見まがうような立派な薬房があった…だが、医者がいないから、その中身は導入したときのままだった…当然、生薬のほとんどは使い物にならなくなっていたし、怪我人や病人が大勢いるのに、誰もその薬種を使えないままになっていた…今度の水底雷だってそうだ。明の最新の知識でそんな武器を作ったが、ドクタケ忍者たちの話では、動作確認すらできてないまま量産していると言う。そもそも、水軍すらもっていないドクタケがそんな高度な武器を使いこなせるなんて、考えられると思うか?」
「つまり、ドクタケが軍船と称するものが、ただの恐竜さんボートだったとしても、意外ではないということか?」
 留三郎の言葉に、伊作は頷く。
「なんだか訳わかんない連中だな」
 小平太が、ぼそっと感想を漏らす。
「だからこそ、危険と言えるんだぞ、小平太」
 仙蔵が、ちらと小平太を見やる。
「どーいうことだよ」
「ドクタケがどうしようもない連中であることは確かだ。だが、おそろしい武器を持っていることも事実だ。いわば、子どもに火縄を持たせてるようなものだ。危険極まりないとは思わないか」
「そういうことだ…いずれにしても、奴らの作戦はぶっ潰さねばならない。留三郎、兵庫水軍の反応はどうだった」
 仙蔵の話を、文次郎が引き取る。
「ああ。兵庫第三共栄丸さんには、ドクタケが水底雷を使って兵庫水軍に打撃を与えようとしていることと、連中の作戦の大まかなところを伝えておいた」
「で、どうだった」
「兵庫第三共栄丸さんによると、水底雷が綱を引いて起爆させる構造だとすれば、設置場所さえ分かれば、兵庫水軍の水練の人が綱を切ってしまうことは簡単だということだった」
「だが、それではつまらんというのが我々の結論だったはずだ」
 仙蔵がにやりとする。
「ああ…だから、兵庫第三共栄丸さんには、俺たちの作戦も話しておいた」
「で、どうだった」
「大乗り気だったな」
 がっはっは…と笑う兵庫第三共栄丸の顔を思い出しながら、留三郎は答える。
「よし、決まりだな」

 

 

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