「和解」追補

いつも感想を寄せてくださる彩華さんが、「和解」のご感想を寄せていただいたときに、すばらしいご示唆をくださいました。このご示唆をぜひとも忘れないうちにと気持ち悪い速さで書き上げたものです。

「和解」の街で留三郎が作兵衛を救出したシーンの次あたりに、以下のお話を挿入してお読みいただくと、なお一層楽しんでいただけると思います。

 

(以下、追加シーン)

 

「ただいま」
 忍たま長屋の自室に戻ると、伊作がなにやら難しい顔をして薬を煎じていた。思わず声を上げる。
「おい、また部屋で薬を煎じてるのかよ…いい加減、医務室でやってくれよな」
 せっかく風呂入ってスッキリしてきたってのによ、と続けながら、手拭いを衝立に掛ける。
「すまない、留三郎。もう終わるから、ちょっとだけ我慢してくれないか」
 言いながら、伊作は薬液を静かに壺に移す。
「ったく、しょうがねえな」
 なおもぶつくさ言っていた留三郎が、ふと好奇心に駆られて何の薬か訊こうとしたとき、伊作が覆面を外しながら留三郎を見上げた。
「ところで、作兵衛とは仲直りした?」
 -!
 いま最も訊かれたくないことを抉り出された気がして、留三郎の意識が一瞬空白になる。
「な、なんでそんなこと訊くんだ」
 言ってしまってからしまったと思った。動揺が露骨に声に出てしまっている。きっと表情にも出てしまっているだろう。伊作がどこまで事情を把握して訊いているのかわからないが、留三郎なりにのっぴきならない気持ちを抱えていることが、これではすべて見通されてしまう…と思った。
「だって」
 煎じ器を片づけながら、伊作はのどやかに言う。
「…午後、保健室当番だった乱太郎のところにしんべヱと喜三太が来て、ずっとその話をしていたよ。二人とも、作兵衛がひとりで修理に出した鍬を持って帰れるのかなってずいぶん心配していたよ」
「お、おい。ちょっと待て」
 留三郎が慌てて遮る。
「俺も、一人じゃ心配だからすぐに街に行ったんだぞ!」
「ああ、そうみたいだね」
 それで、一年生だけで埋戻しをしなきゃいけなかったンだよ! と口をとがらせるしんべヱと喜三太の表情を思い出す。
「でも、仲直りはしてないみたいだね」
 あっさりと宣告する伊作の言葉に、一撃で心臓を刺し貫かれたように感じて、留三郎は言葉を失う。
「ど、どうしてそう思うんだよ」
 辛うじて口からひねり出せた問いだった。
「これまで、何度君たちの意地の張り合いを周旋したと思ってるんだい?」
 伊作は肩をすくめる。
「今日は作兵衛が風呂当番みたいだけど、見るからに落ち込んでいたよ。一緒に街に行ったのに、いったい何があったのさ」
「…」
 畳み掛ける伊作に、今度こそ留三郎は何も言えなかった。
 -たしかに、俺は作兵衛にきちんと謝ってなかった…。
 街の性質の悪い連中に痛めつけられていた作兵衛を助けることは助けたが、すぐに学園に帰らせたので、言葉を交わす余裕はなかった。そのあと、物陰で相手を思うさま叩きのめした留三郎は意気揚々と引き上げてきたのだが、学園が近づくにつれて、どうやって作兵衛に謝ればいいやら見当がつかなくて、すっかり気鬱になっていたのだ。
 -今日のことは、どう考えたって俺が悪かったからな…俺が作兵衛をあんなに追い込んでさえなければ…。
 何が原因であんな連中に関わってしまったのか定かではないが、留三郎にはおおよそ見当がついている。
 -作兵衛のやつ、気が立っていると喧嘩っ早くなるところがあるからな…。
 自分と似た気質ゆえに、手に取るように想像できる留三郎だった。だからこそその原因を作ってしまった自分は、作兵衛に対して、どのような表情で、どのように声をかければいいのかわからない。

「今頃、作兵衛は終い風呂をつかっているんじゃないかな」
 文机に向かって本を読んでいた伊作が、ひとりごとにしてはいやに明瞭な声でつぶやく。
「…だから、なんだよ」
 まったく君ってやつは…と肩をすくめながら伊作は呆れたように声を上げる。
「決まってるだろ。留三郎も風呂に入ってくるのさ」
「だが、俺はもう風呂に…」
「だから、もう一回入るのさ!」
 さすがの伊作も苛立ってきたようである。
「だが…」
「だがも何もないだろ!」
 立ち上がった伊作が言い募る。
「…身も心も裸になってきちんと謝れば、作兵衛だってきっと仲直りしてくれるさ。何より作兵衛は留三郎のことをあんなに慕っているんだから、いつまでも意地を張っているなんてできないはずだよ。ここで上級生の留三郎が仲直りのきっかけを作ってあげなくてどうするのさ…!」
 はい、これ持って、と衝立に掛けてあった手拭いを押し付けると、伊作は強引に留三郎を部屋の外に押し出す。
「お、おい、何しやがるんだよ」
「さ、とっととお風呂に行った行った。早くしないと作兵衛が風呂からあがっちゃうよ」
 いうだけ言うと、まだ何か言いかける留三郎を無視してぴしゃりと襖を閉じる。
 -まったく、世話が焼ける…。
 襖に背を向けた伊作は、そのまま寄りかかるとふっとため息をついて苦笑いする。
 -ま、それがあの二人らしいんだけどね…。

 

 (そしてお風呂のシーンへ続く…)

 

 

コメントをお書きください

コメント: 3
  • #1

    彩華 (土曜日, 28 1月 2012 18:19)

    和解の追補、
    私が感想をかいた次の日ここに来た時、
    一目見た瞬間とんでもない表情になっていたかと・・・(笑)

    いやぁ~~
    理想の6はここにあり ですね!!

    まさかまさか、かいていただけるとは思いませんでした!

    ・・・とかいいつつ、
    本当は我儘を言いたかったんですよ~
    かいていただきたいな~ なんて思ってたので。


    でも、単なる私の妄想の暴走なので、
    勝手に頭の中で楽しんでたんですが、

    忍たま愛で伝わったんですね!・・・
    ・・・・・・・・・(それは違うか。)


    まぁ、なにはともあれ、すっごく素敵な、
    私得な追補ありがとうございます!!

    うわ~~、もう、なんといったらいいか、
    なんかすごい幸せです♪

    **

    ≫「だから、もう一回入るのさ!」
    あまりに不器用な留さんに、若干苛立ってくるけど、
    本当に怒ったりはしないのが伊作だと思います。

    あと伊作は、

    人が幸せなら自分も幸せ

    っていう、すごい「いい人」だと思うから、
    2人の中が元に戻っても、
    「自分のおかげ」とかは思わなさそうなので、

    ≫まったく、世話が焼ける…。


    っていうのも、
    「自分が何とかしなきゃ!」
    っていうよりは、
    ただ純粋に2人がうまくいってくれることを願ってると思います。
     
    それが伊作らしいかな、とか。


    **

    そういえば、この追補が読めたこと自体が幸せなのですが、
    はとさまのからくり時計に更新があり、
    「あー、更新だ~」
    とか思ってたら、
    まさかの「和解」!?
    しかも挿絵つき!?


    私はピクシブとかも巡りますし、
    いろんなサイトをお気に入りに入れているのですが、
    小説サイトでは、ここ、
    そして、イラスト(漫画)サイトではからくり時計が一番好きなので、

    え?なにこの私得コラボ!!??

    と思ってました。

    なんか・・誕生日が来た気分です!
    これ以上見れて嬉しいものはないです!


    ああ・・・これで、1年分の運を使い果たしたくらいの気持ちです・・・
    ↑でも「それでもいいや!」って思えるくらい今幸せ❤


    和解の追補、感謝感謝です!!

  • #2

    彩華 (土曜日, 28 1月 2012 18:20)

    わわっっ。
    もう、何度目かと思いますが、
    打ち間違いというか、
    なんか、誤字が・・・!!

    ×2人の中が元に戻っても、

    ○2人の仲が元に戻っても

    **

    すみません!!

  • #3

    3chaya (月曜日, 30 1月 2012 22:03)

    こちらこそ、萌えのままに書いてしまった追補に喜んでいただいて、とても有難いです。彩華さんのご示唆を読んだ瞬間にもうストーリーがすっかり展開しちゃって(そうあることじゃありません)、これはやはり忍たま愛で伝わっちゃったとしか言いようがないのかな、とw
    で、ご好評にお応えして(?)追補部分も本編に組み込んでしまうことにしました。
    はと様に思いがけず挿絵も描いていただいて、私としてもかなり俺得でしたv