【Book Review】”日本語の歴史”

日本語の歴史 山口仲美著(岩波新書)

 

日本語の歴史、というより、日本語の表記の変遷、というほうが正確なのかもしれない。とはいえ、文字の伝来以前の語り言葉としての日本語が、文字に出会い、書き言葉へと移り変わる苦闘の過程こそが日本語の歴史であり、その意味で本書のタイトルは、正鵠を得たものなのであろう。

 

文字が伝来した古墳時代から、ともかく万葉仮名のようなかたちで文字による日本語表記が落ち着いた奈良時代にかけての日本語の発音は、88音もあったという。現代の日本語が62音だから、上代の日本語は、現代よりも豊穣な発音空間があったのだろう。

多様な発音が整理されたのは割と早く、平安時代には現代とあまり変わらない数までリストラが進んだらしい。同時に、かなの発達により、日本語としての表現がこなれてきたのも平安時代である。武士の言葉を通じて表現に論理性が付与されたのが鎌倉・室町時代、近代語の萌芽が見られる江戸時代から言文一致体へと一気になだれ込む明治時代と、日本語の変容の過程が、本書では簡明に語られる。

 

個人的には、3種類の文字を使い分ける日本語とは、世界でもっとも表現力に富んだ言語だと考えている。「好き」と「スキ」と「SUKI」では、感じ方が異なるように。アルファベットやギャル文字まで加わった表現力は、もはや茶屋の想像の域外である。

同時に、「ヤバイ」の意味の変容にみられるように、日本語の言葉の意味そのものも変化を続けている。日本語とは、常に変容を続ける言語なのかもしれない。

 

日本語の来し方は、本書を読めばおおかたつかめる。行く末は、ネットを含めた多くの表現者を追うことで、考えていきたいと思う。

 

とはいえ、私が書くのは単なる萌えのはけ口にすぎないのだがw